大阪府にある鷹崎の自宅すぐ近くにあるその物件も、所有者が
転々としていた。
最初は弁当屋だった。名前は「ドカ弁」。
「ほか弁」が「ほっかほか弁当」の略なら、こちらは
「どか盛り弁当」の略だったのか?
次には喫茶店に改装され、ここから入れ替わりスピードが
激しくなった。
いちいち名前なんか覚えていられない。
覚えた頃には変わっているからだ。
普通の喫茶店では限界を感じたのか、途中から「夜はカラオケ
スナック」も加わることになる。
それでも客足は悪かったようで、長続きしなかった。
ある日、茶色の看板はオレンジ色に改められ、突如「団子屋」として
デビュー。
この地に新風を吹き込むかと思いきや、史上最短で店は閉じられて
しまった。
ああ、もうここはホントに何をやってもダメな所なんだ、と
家族で言い合ったものである。
ところが、懲りないと言うか物好きな人はいるもので、この店舗を
またしても借りる人が現れたのだ。
そのオーナーはオレンジ色の看板に書かれた店の名前と団子の
イラストをきれいに消し去った。
ここまでは、当たり前だろう。
だが、オープンした店の看板を見て、鷹崎は大いに驚いた。
そこには、
「昼はカラオケ 夜はスナック」
「喫茶」
という文字が躍っており、他にあるのは電話番号のみ。
どこを見ても店の名前が書いてないのだ。
普通、看板と言うのは店の顔であるからして、何はなくとも店名は
記入するはずだ。
それが、このカラオケ喫茶スナックは、自分の名について一切
明かしていないのだ。
名乗りを挙げないなんていやに謙虚じゃないか? と首を傾げたが…。
――待てよ。
もしかしてこの店の名は、「喫茶」もしくは「昼はカラオケ 夜は
スナック」なのではないか!?
…いや、あり得ない。
となると、これはわざとこういった記載で道行く人に、
「あの店の名前は何なのかどうしても確かめたい!」
と思わせ、店内に誘導する作戦なのだ。
そうだ、そうに違いない!!
様々な推測をし、結論付け、納得し、鷹崎は大きく頷いた。
…3日後、看板に「順」という大きな文字が
追加されていた。
父の聞き込みによると、
「いやあ、うっかり店の名前を入れてもらうの、忘れてたよ
(オーナー談)」
ということだったそうだ。
鷹崎の完敗である
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